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県立津田沼「寿歌-ほぎうた-」

 全14作品の、上演順がいちばん最後。13本観て、すでに私は「あれとあれとあれ」みたいにアタマのなかで勝手に順位付けをすませていました。そうしたら、最後の県立津田沼がなかなかいい。どこまで食い込むか。不純ですが、すでに観た13本と比べちゃいながら。「お。どうするどうする?」と、順位変動させつつの観劇でした。

 この作品は「切なさ」。淋しさよりも、悲しさよりも、切なさです。

 印象的なのは、あのラストシーンです。ゲサクとキョウコ。ふたりのなんとちっぽけなことか。この広い世界で、この広い舞台で、ぽつんとふたりだけがいて、そのちっぽけさが悲しい。そのとき雪が降り出します。キョウコは雪に気付いて無邪気に喜ぶ。その表情がいい。きっとふたりの将来は明るくなかろうに。ステキなラストだな。幕が下りて万雷の拍手。

 舞台の天井が高いからこそ、キョウコの見上げる空の広さが想像されますね。天井の高さ、舞台の広さ。この作品は、空間が活きていました。あの広い市川市文化会館の、その広さを持て余さず、むしろ効果的に使っていた。その点で一歩、他より優れていると私は見ました。広くなければ、氷河期を生きる彼らの姿があれほど切なくは感じられなかったと思うもの。

 審査員の保科耕一さんが「彼女には特別に賞を上げたいぐらいです」と、キョウコ役の女子を激賞していました。私も賛成です。すっごくよかった。南京玉簾のすだれを直すときの表情とか。先述のラストの表情とか。彼女はセリフも達者でしたが、セリフをしゃべっていないときの表情もいいのです。頭の弱い(←あまりいい表現じゃないですが)キョウコが、しゃべっていないときにどんなことをその頭で考えているのだろう・・・。私はそういうのに弱いです。

 北村想の、あまりにも有名なこの作品。はずかしながら私は初見でした。リアカーで旅をするゲサクとキョウコ。ちょっと「道」みたいですね。フェリーニの。ザンパノとジェルソミーナ。続編もあるそうで、ぜんぶまとめて読んでみようと思います。正直、あのラストシーンのあとに続編があるのは信じがたいというか、あまり知りたくないような気もしますが。(はやし)
by futohen | 2006-12-02 02:06 | 演劇一般